ニュース解説
気候変動で南アジアの4,050万人が動く可能性、海外移住と企業の備えをどう考えるか
国際移住機関は、南アジアで2050年までに最大4,050万人が気候変動で住まいを離れる可能性があると示した。洪水や干ばつの構造、海外移住の動き、企業が今から進めたい備えを具体的に読み解く。
ニュースの概要
国際移住機関(IOM)は、気候変動の影響が最も深刻になる場合、2050年までに南アジアで最大4,050万人が住み慣れた土地を離れる可能性があると示した。洪水や干ばつ、農作物の不作が暮らしの土台を削り、まず国内での移動を、続いて国境を越える移住を後押しするという見立てである。国連の移住担当者は、人工知能による予測の活用や、政府が早い段階で手を打つことで、被害は小さくできると述べている。具体策としては、農業のやり方の見直しや、別の仕事に就くための職業訓練などが挙げられた。数字はあくまで最悪の場合の上限であり、対策しだいで幅が変わる点が重要である。
引用元: 南アジアで気候変動による移住リスク拡大、2050年までに最大4,050万人が移動の可能性(The Daily Star)
分析・見解
4,050万人という数字は最悪の場合の上限である
この数字は、温室効果ガスの排出が減らず、備えも進まない場合の見積もりである。確定した未来ではない。世界銀行も2021年の報告書で、2050年までに国内で移動する気候移民が世界で最大2億1,600万人に上ると試算した。南アジアはその中でも大きな割合を占める。今回の数字は、同じ方向を示す推計の一つと見るのが妥当だろう。
大切なのは総数よりも、動き方である。人は災害の翌日に国を出るわけではない。まず村から近くの町へ動き、そこで仕事を失い、次に大都市へ向かう。最後に、親族や知人を頼って国境を越える。段階を踏みながら、移動が静かに広がっていく。
洪水と干ばつが同時に暮らしを壊す地域の構造
南アジアは、大きな川の下流に人口が密集している。ガンジス川やブラマプトラ川の三角州では、海面上昇による塩害と洪水が重なり、田畑が使えなくなる。一方、内陸では雨の降り方が不安定になり、干ばつが作物を直撃する。農業で暮らす人が多いため、天候の揺れがそのまま収入の揺れになる。貯金の少ない世帯は、一度の不作で土地を手放さざるを得ない。
人工知能が役立つのは「いつ、どこが危ないか」の予測である
IOMが人工知能に期待するのは、移動を止めることではない。衛星画像や気象データから、どの地域で、いつごろ暮らしが成り立たなくなるかを早く見つける役割である。予測が数年前に分かれば、受け入れ側の町は住宅や学校を準備でき、住民は職業訓練を受けられる。逆に、予測があっても動かない政府の下では、数字は意味を持たない。技術よりも政治の決断が先に来る点は、見落とされがちである。
移住は「弱者の避難」と「資産を持つ人の備え」に分かれて進む
ここに独自の視点がある。移動する人は一様ではない。貧しい世帯は、国内の近場へ逃げるしかない。一方、資金のある層は、早い段階で海外の居住権や第二の生活拠点を確保する。気候リスクは、ビザや不動産の需要という形でも表れる。マレーシアやドバイ、ポルトガルが長期滞在の制度を整えている背景には、受け入れ側の経済的なねらいもある。同じ気候という原因から、難民と投資移住者が別々の入口で動く構図になっている。
ビジネスへの影響
拠点と取引先の水害リスクを、数字で点検する
南アジアに工場や委託先、人材の供給元を持つ企業は、洪水の頻度と労働者の移動を、あわせて見る必要がある。縫製業を例にとると、バングラデシュでは出稼ぎ先の都市部に労働者が集中している。農村の不作が続けば、都市への流入が増え、賃金や住環境が不安定になる。取引先の所在地がどんな水害リスクを抱えるか、年に一度は確認したい。代わりに使える調達先を一つ持つだけでも、被害は小さくなる。
海外居住の相談は、価格より安心感で選ばれる
南アジア出身の専門人材やその家族から、海外居住の相談が増えていくだろう。故郷の気候不安が、検討を始める一つのきっかけになるからである。長期滞在ビザや居住権の制度を扱う事業者は、制度の紹介だけで終わらせず、税金、医療、教育まで含めた説明資料を用意しておくとよい。リスク回避が理由の相談では、手続きの安さより、先の見通しが立つことが選ばれる決め手になる。
大きな投資より、確認と手順づくりを先に進める
まず、拠点と取引先の地図に、洪水や干ばつの履歴を重ねる。次に、現地従業員への支援策を決める。災害時の休業ルールや、住居の補助がその例である。三つ目に、越境雇用や移住の制度を調べ、いざという時に動ける手順をつくる。どれも大きな費用はかからない。備えの差は、起きてから決めるか、起きる前に決めておくかの差で決まる。