ニュースの概要

ベルギー議会は11月6日、退去命令を受けたのに出国しない非正規滞在者などを対象に、警察が自宅へ立ち入って身柄を拘束できる法律を可決した。対象には、公共の秩序や国家の安全を脅かすとみなされた人も含まれる。立ち入りには予審判事(=捜査の適法性を事前に確認する裁判官)の承認が必要で、時間は午前5時から9時に限られ、移民当局の職員が立ち会う。右派連立政権が送還を急ぐ施策の一つだが、左派政党や人権団体、法曹関係者からは、住居の不可侵を揺るがすものだとして強い懸念が出ている。

引用元: ベルギー、非正規滞在者の自宅立ち入り・拘束を認める法律を可決(AFP)

分析・見解

自宅という最後の砦に踏み込む法律の重み

これまでの欧州の多くの国では、退去命令が出ても、警察が本人の自宅に入って連れ出すことは簡単ではなかった。住居は私生活の最後の砦とされ、憲法や欧州人権条約でも守られてきたからだ。実際には、命令を受けた人が姿を消したり、そのまま住み続けたりして、命令が空文化する例が目立った。欧州連合全体で見ても、退去命令を受けた人のうち実際に出国する人は、おおむね5分の1から3分の1にとどまるとされる。今回の法律は、この「命令は出たが実行されない」という穴を、立ち入り権限で埋めようとするものだ。

歯止めは本物か、それとも形だけか

条文を見ると、政権側も批判を意識していることが分かる。予審判事の事前承認、早朝の4時間に限る時間設定、移民当局職員の立ち会いという三つの条件がある。これは、警察の判断だけで家に入れる仕組みにはしないという設計だ。ただし、批判する側の疑問も具体的である。承認する判事の負担が急増すれば、審査が形式化しないか。早朝という時間帯は、家族全員が在宅している確率が高く、子どもが同席する場面も増えるのではないか。対象に含まれる「国家安全保障上の脅威」の線引きが、運用で広がらないか。歯止めの効き目は、条文ではなく、承認件数や却下率といった運用の数字で決まる。

欧州全体で進む送還強化の流れの一部

ベルギーだけの動きではない。ドイツは2024年に、送還の対象者を拘束できる期間を延ばし、共同住宅で本人以外の部屋に入れる権限も広げた。オランダやデンマークも、送還の実効性を高める方向へ進んでいる。背景には、各国で移民に厳しい政党が議席を伸ばし、既存の政権が対応を迫られているという政治の力学がある。EUが進める新しい移民・難民協定の下で、送還の数値目標が各国に意識されていることも大きい。この流れは一国の右傾化というより、欧州全体の制度の標準が少しずつ動いている現象として見るべきだ。

見落とされがちな視点:締め付けは正規の滞在者にも波及する

ここで一つ指摘したい。非正規滞在者への取り締まりが強まると、その影響は正規の滞在者にも及ぶ。在留資格の更新審査が厳しくなり、書類の不備や更新の遅れが、以前なら見逃された軽微な問題として扱われなくなるからだ。取り締まりの精度を上げるために、住所登録や就労先の照合も厳格になる。制度の入口で厳しくなるのではなく、すでに住んでいる人の日常の手続きが静かに重くなる。この点は、移民政策のニュースを自分には関係ない話と考えている人ほど、押さえておく価値がある。

ビジネスへの影響

海外移住や長期滞在を考える人が点検すべきこと

欧州への移住やゴールデンビザ、デジタルノマドビザを検討している人にとって、今回のニュースは直接の対象外だ。しかし、在留管理が厳しくなる流れは確実に実務へ響く。具体的には、住所変更の届け出の期限、在留カードの更新時期、就労や収入の証明書類の三つを、滞在国の期限どおりに管理する習慣が必要になる。更新の数か月前から準備を始め、書類の写しを日本と現地の両方に保管しておくと安心だ。うっかりの期限切れが、これまでより重い結果につながりうる時代に入っている。

海外進出企業と支援業者が備える実務

欧州に駐在員や現地スタッフを置く企業は、在留資格の有効期限を一覧で管理し、期限の90日前に通知が出る仕組みを持つべきだ。人事担当者が個人任せにしていると、更新漏れに気づくのが遅れる。移住支援を手がける事業者にとっては、移民政策の変化を継続的に追い、顧客へ説明する体制そのものが商品価値になる。国ごとの規制の差を比べて、リスクの低い滞在先を提案できるかどうかが、紹介業者の信頼を左右する。法改正が出たときに、24時間以内に顧客向けの要点メモを出せる程度の機動力が望ましい。

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